今までに無い複合機
経営者になれるはずだ」という自信がでできたら、その時は思い切って起業にチャレンジすればいいのである。
だから経営メンバーは、起業の前のワンクッションの役割も果たすということが言えるかもしれない。
経営メンバーのその後の道として、会社からスピンオフして子会社の社長になる道、みずから選んで起業する道を説明した。
三番目の道として挙げられるのは、ちょっと変わった人生だが、「再建屋」としての専門家を目指すという選択肢である。
再建屋というのは泥臭い言葉だが、カッコよくカタカナで言えば、「ターン・アラウンドマネージャー」ともいう。
第4章で紹介したカネボウのK社長がそうだ。
K氏は通産省(現経済産業省)の官僚だったが、三十代で通産省を退職し、レンタルビデオのTを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブに移籍した。
そして二OO四年に産業再生機構に移り、問機構からカネボウの再建を任されるかたちで社長に就任したのである。
K氏はカネボウの繊維事業や化粧品事業に詳しいわけではなく、まったくの門外漢だが、そのマネジメント能力が高く買われた。
K氏は四十代前半だが、もし彼が新卒でKに入社していたらどうなっていただろう。
部長クラスぐらいにはなっていたかもしれないが、社長になるという可能性はきわめて低かったのではないだろうか。
だが彼はTで経営メンバーとしての経験を積んだことで経営センスを磨き、そしてタ−ン・アラウンドマネージャーとしての能力を高く評価されることになったのである。
スピンオフや起業、タ−ン・アラウンドなど、ごく普通に大企業のビジネスマンを続けているだけでは、一生経験することのない起伏に富んだ仕事である。
平凡なサラリーマン生活を送っている人でも、ひとたび経営メンバーになって大企業の外に出れば、これだけの面白い仕事が待っているのだ。
ここまで、経営メンバーの価値と役割、そして実際に経営メンバーに入るための具体的な方法について、さまざまに記してきた。
大企業でビジネスマン生活を送っている方たちに、私は伝えたい。
社会人を五年以上も続けてきて、もしいまの仕事に不満を持っていたり、あるいは自分の人生を少し変えてみたいと思っているのであれば、ぜひ経営メンバーという仕事を選択肢に入れてみてほしい。
外資系を含む他社への転職も素晴らしいことだが、しかし経営チ−ムのひとりとして成長し続けている企業を支えるという仕事は、どんな仕事にも増して面白い。
しかも再三述べてきているように、経営メンバーになるというのはミドルリスク・ミドルリターンで、起業と比べればずっとハードルは低いし、リスクも少ない。
残りの人生を、思い切って楽しんでみようではないか。
ロ−リスク・ローリターンのビジネスマンでもない、かといってハイリスク・ハイリターンの起業家でもない、その中間に位置するミドルリスク・ミドルリターンの経営メンバーという生き方の選択を、主としていま大企業に勤めるビジネスマンの方々にお勧めしてきた。
実際に経営メンバーとして成功している何人かの事例も紹介してきた。
経営メンバーになるための道筋についても紹介してきたつもりである。
そうはいっても、読者の中には、経営者と経営メンバーのマッチングを具体的にイメージすることができないでいる方々も多いだろう。
マッチングがイメージできなければ、安心して経営メンバーという生き方を選択することもできなくなる。
そこで以下にマッチングの実例を、インタビューというかたちで紹介することにしたい。
ご登場いただくのは、H社長と経営メンバー、G社長と経営メンバー、RとCの経営メンバー各一名の計六名の方々である。
マッチングがいかにして成立したか、経営メンバーを求める「経営者」の声と、それに応えた「経営メンバー」の行動が、いま大企業にいてどうすれば経営メンバーへの道が聞けるか、見当がつかず迷っているあなたにも、ストレートに伝わってくるはずである。
代表取締役社長のHさんは、一九六一年生まれ。
神奈川大学経済学部を卒業して金融関係の会社に就職したが、三年で退職し、アルバイト生活を送っていた。
二十五歳だった一九八七年、起業して家庭教師の派遣ビジネスを始めた。
そして家庭教師に登録してくれた人材を活用する形で、九O年にFを設立し、軽作業のアウトソーシング事業をスタートさせた。
以降、人材企業との提携やIT化などを積極的に推し進め、事業かかん展開を果敢に行っていったのである。
H社長の車越した経営手腕は、事業の各局面に生かされている。
その中でも特に素晴らしいのが、人材戦略だ。
もともとはFも他のベンチャー企業と同じように、創業メンバーたちによって運営されていた企業だったが、上場して会社の規模が拡大していくのに伴って、ドラスティックに人材戦略を転換。
それが功を奏し、現在のFはビジョンメーカーである社長と、それを支える経営メンバーたちによって運営される有機的な組織となっている。
社長に、その人材戦略の一端を聞いてみた。
人材戦略を転換したきっかけは、何だったのですか。
二OO一年にジャスダック市場に上場してから、いったん成長が鈍化してしまった時期がありました。
それまで社員も役員も、上場をひとつの目標、ひとつの到達点として必死で頑張ってきていたんですね。
それが上場を成し遂げたことによって一服感が出てきてしまったというか、少し社内の空気が停滞してしまったのです。
その空気を変える必要があった。
そうです。
私はさまざまに考えて、Fがさらに次のステージに上がっていくためには、新たな人材を導入していく必要があるということに気づきました。
ずっと一緒にやってきた創業メンバーというのは無から有を生みだし、ゼロから一を作り出してきた人材です。
猪突猛進型というか、とにかく突き進むことを良しとするタイプのメンバーだったんですね。
しかしそうして立ち上がった企業が今度は百から千へ、さらには千から一万へと成長させようとすると、別の経営能力が必要とされるようになる。
具体的にはどのような能力なんでしょうか。
組織が小規模なうちは二対一のヒューマンコミュニケーションができれば問題はない。
でも創業者の強いリーダーシップとカリスマ性を発揮することで、そうしたコミュニケーション能力だけで会社が維持できるのは、社員数が五十人、最大でも百人程度までです。
学校の担任の先生と同じで、ひとりで把握できる人数には限界があるんですね。
だからある程度の大きさになってくると、今度はその組織をどうやって作っていき、どうやって動かしていくのかという組織論的な考え方が必要になるんです。
だから組織論、戦略論をきちんと理解できている人聞が必要になります。
組織の運営の仕方が変わってきてしまうんですね。
その一方で、会社が大きくなると、各部署の専門性もますます必要になってくる。
これまでは社長が兼務していたような人事や経営戦略、営業などの各分野でのスベシャリティが求められるようになるのです。
そうしたことを考えると、大企業にいてスペシャリティを持っている人材を、外部からヘッドハンテイングしてきで幹部として登用するという戦略の方がベタ!なのではないかという結論に達したのです。
創業メンバーの方たちの処遇はどうされたのですか。
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